仕事で疲れているときや、目の前のことから少しだけ離れて気分転換をしたいとき、店主はよく歌集を手に取ります。ひとつの世界にどっぷり浸るようにして読む小説に対して、短歌は車窓から外を眺めるときのように、五・七・五で織りなされるさまざまな景色に触れられるのが魅力だと感じています。
最近のお気に入りは、盛田志保子『木曜日(現代短歌クラシックス05)』(2020年書肆侃侃房)。桃色のふせんと翼、空に浮かぶ雲と唇、強くなっていく雨音と拍手など、意外なもののイメージが重なり合うのがおもしろく、「こんな状況なのかな」と想像がふくらみます。家族や友達との何気ない日常が素直に切り取られた歌もあって、読んでいるうちに心のなかの風通しがよくなっていくよう。いつも手元に置いておいて、ふとしたときに何度でもページを開きたくなる一冊です。