味や香りによって、突然忘れていた記憶が蘇ったことはありませんか?
店主は食への関心が強いので、幼い頃母が焼いてくれたケーキや学生のときに友達とよく食べていた菓子パン、海外旅行で初めて出会ったスイーツなど、食べ物の思い出がたくさんあります。
森下典子『いとしいたべもの』(2014年文春文庫)は、そんな記憶を1冊にまとめたエッセイ。「たべものの味にはいつも、思い出という薬味がついている」という印象的な言葉から、作者は思い出を語り始めます。
塩鮭の皮が大好きだった小学生時代、南アメリカ大陸が鮭の切り身にそっくりなのを発見して、その南端のホーン岬のあたりが「最高にうまい」と考えていたこと。7歳のとき、叔母にポテトサラダのサンドイッチを作ったらあっという間に平らげてくれたときの誇らしさと喜び……。なんとも味わい深いイラストとともに綴られるエッセイは、表題通り愛しさで胸がいっぱいになるようなエピソードばかりでした。
読んでいるだけで忘れていた味の記憶がたくさん蘇ってきて、懐かしい気持ちになります。