旬の果物ならではのみずみずしさ、豊かな香り、そして口のなかいっぱいに広がる幸福感。季節の移り変わりを感じるたびに「次はあれを食べよう」「これも食べたい」と、おいしさのピークを待ち構えています。でも、果物の食べごろを見極めるのは意外と難しいもの。食べるのが早すぎたり遅すぎたりしたときの落胆といったらありません。
そんな喜びと気苦労を鮮やかに描いていたエッセイが、平松洋子『夜中にジャムを煮る』(新潮文庫)の表題作。リズミカルで小気味いい文体ですが、こと果物については思わずごくりと喉を鳴らしたくなるほど、官能的な筆致でつづられています。
刻々と変化する果物に翻弄され続けた作者がたどりついた、「いちばん幸福なときに鍋のなかで時間を止めてしまう」方法。それがジャム作りです。しんと静まり返った夜の台所でとろりと煮込むという、ページから香りが漂ってくるような甘美な描写に惹きつけられました。
みみずく洋菓子店のスイーツでは、「レーヴ・ドゥ・フロマージュ ブリー ド モー A.O.C.」に白いちじくのコンフィチュールを使っています。このエッセイを読んでいて、また新しい果物のコンフィチュールを研究したくなってきました。